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ニュートリノ質量階層性とは?

ニュートリノ質量の順番
図1: ニュートリノ質量階層性。m1, m2, m3 のそれぞれのニュートリノ質量の値はわかっていませんが、可能な順番が二つあります。[クリックして拡大]

ニュートリノには3種類存在することが分かっていますが、最近までニュートリノには質量がないと考えられていました。しかし、飛行中に種類が入れ替わる「ニュートリノ振動」という現象の発見により、ニュートリノには質量があり、そして三種類のニュートリノの質量(m1, m2, m3)がそれぞれ違うことが分かりました。

太陽ニュートリノや原子炉からのニュートリノの振動の観測からはm1とm2の質量の二乗差m12-m22が得られ、大気ニュートリノの振動の観測からはm2とm3の質量の二乗差m22-m32が測定されました。しかし、これまでのニュートリノ振動実験で調べられるのは質量の二乗差だけなので、m1, m2, m3のそれぞれの値やm2とm3のどちらが大きいかは分かっていません。これは「ニュートリノ質量階層性問題」と呼ばれています。前者の方が軽い場合は「正常階層」と言い、重い場合は「逆階層」と言います (図1)。

質量階層性はなぜ重要か?

ニュートリノとその質量階層性は素粒子や原子核と深い繋がりを持っています。

我々の世界には四つの力(強力、弱力、電磁力、重力)が存在しますが、宇宙誕生時の高温状態ではその4つの力は統一されていたと考えられています。こういった力の「統一」を説明する理論では、ニュートリノの質量階層は正常階層だと予言しています。その一方では、宇宙と素粒子の起源を説明し、逆階層を予言する理論もあります。現在の技術では宇宙誕生時の状態を再現することは不可能なので、これらの理論を通して宇宙初期を理解するために、ニュートリノの質量階層問題を決定することは非常に重要です。

質量階層性を決定することは現在の宇宙の理解にも役に立ちます。その決定は、ニュートリノと反ニュートリノの性質に違いがあるかどうかを解明することに繋がっています。ニュートリノ以外のレプトンは皆それぞれの反粒子と性質が異なっています。しかし、もしその区別が付かない性質(マヨラナ性)が存在するとしたら、ニュートリノは唯一の候補であるため、判明出来たら今までにない発見となります。また、質量階層性は、星が寿命を終えて超新星爆発を起こした時に作られる原子核同位体の生成と深く関わっています。

ニュートリノ振動と反ニュートリノ振動の違いを測定することにより、宇宙初期に粒子と反粒子が同数に存在していたと考えられているのに、何故現在の宇宙が粒子だけで満ちているかという深い謎の解明が可能です。ただし、質量階層性問題が未解決であれば、その違いが見えにくくなり、測定が困難になるため、質量階層性の理解は不可欠です。

ハイパーカミオカンデにおけるニュートリノ質量階層性測定

質量階層性による電子ニュートリノの事象数の変化
図2:ハイパーカミオカンデにおける質量階層性決定方法。ニュートリノ振動がない場合に比べて正常階層(赤)と逆階層(青)それぞれの電子ニュートリノの期待される事象数の差を示しています。地球の裏から来た、電子ニュートリノに振動した事象数は正常階層の方が逆階層に比べて多くなっている。[クリックして拡大]

ハイパーカミオカンデは、宇宙線が大気中の原子核と衝突する時に生まれるニュートリノを大量に捉えることができます。その中でも、地球の裏側の大気で生成され、地球内部を通って検出器まで飛んでくるニュートリノは地球の物質の影響を受け、ミューオンニュートリノから電子ニュートリノへ、そして反ミューオンニュートリノから反電子ニュートリノへのニュートリノ振動の様子が変化します。ただし、その変化の度合いはニュートリノの質量階層性によって変わり、正常階層の場合は電子ニュートリノの出現が強められ、逆階層の場合は反電子ニュートリノの出現が強められます。

このため、地球の裏側から来た電子ニュートリノへと振動した事象は、逆階層よりも正常階層の方が多く観測されることになります(図2)。(反電子ニュートリノへ振動した事象は、正常階層よりも逆階層の方が多く観測されます。)質量階層による変化は、事象数にしておよそ5から15%程度ですが、ハイパーカミオカンデが巨大なため、この小さな変化でも測定することが出来ます。